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若手社員「連鎖退職」の恐怖…職場の問題とは?

2018.08.17

読売新聞の記事を紹介します。

 

入社員の3分の1が入社3年後までに辞めていく(厚生労働省の2017年度調査)近年、特に企業が頭を悩ませるのが、若手社員らが次々辞めていく「連鎖退職」だ。読者の中にも、数人の若手が短期間に次々と辞めていったのを目の当たりにした人もいるかもしれない。将来を担うはずの若手を一気に失うのは職場はもちろん、会社にとっても大きな損失だ。連鎖退職が起きる理由や、防止する手段について、人材活用に詳しい青山学院大教授の山本寛氏に解説してもらった。

◆地震でパワハラ上司「何が何でも出てこい」

 6月の大阪北部地震の時のことだ。電車が軒並み止まり、出勤も困難な状況の中、ある会社の上司が「何がなんでも出てこい」と部下に指示。それに対し「非常時に社員を守ろうとしない会社は嫌だ」と新入社員7人が連名で退職届を出した――という話がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で話題になった。

 話の真偽は定かではないが、社員が短期間に一斉に辞める「連鎖退職」は、今、多くの企業で問題となっているという。

 連鎖退職で多いのは、同僚の退職に影響され、別の社員も退職を決意するなど「退職が退職を呼ぶ」状況だ。一人が辞めると

 「会社の将来は大丈夫か?」

 「ここにいては危ないのか?」

 「私も辞めた方がいいのではないか?」

――などといった不安感や絶望感が伝染してしまうのだ。

◆中小企業、5割近くが「3年以内離職」

 厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」の調査結果(17年)によると、14年に大学を卒業し、新卒で入社した若手社員の32.2%が3年以内に会社を辞めている(高校卒業者はさらに高く、40%を超える)。この数字は近年、わずかではあるが増加傾向にある。この「3年以内離職率」は、特に人手不足に苦しむ中小・零細企業のほうが高い。

 採用難の企業にとって、若手社員の「連鎖退職」は最も恐ろしい事態ではないだろうか。一人が辞めると、他の若手に「やっぱりこの会社に未来はないんだ」と確信させることになり、どんどん退職者は増えていく。まさに「負のスパイラル」だ。

◆連鎖退職を呼び起こす環境とは?

では、どんな組織や職場で連鎖退職は起こるのだろうか。

 やはり、若手社員(職員)の多い会社や組織ほど起こりやすいといえる。

 若い社員はこれからの社会人としての人生が長いため、会社の将来に自分の将来を重ね合わせることが多い。

 そのため、労働条件や仕事に対し、これといって強い不満がなくても、「この会社に将来性が感じられない」などのネガティブな感情が「辞めたい」という決意に結びつきやすい。また、「第二新卒」という言葉があるように、若ければ転職市場での選択肢は広く、退職の心理的ハードルは低い。だから、連鎖退職の動きに拍車がかかりやすいといえる。

 会社の規模で言うと、連鎖退職は社員が少ない中小企業など小さい組織ほど起こる可能性が高い。前述の厚労省の調査結果から推計すると、従業員100人未満の企業の場合、2014年に大学を新卒で入社した社員の約45%が3年以内に辞めているとみられる。

 小さな組織にはマイナス感情が広がりやすい、と筆者は見ている。従業員数が少ないと、連鎖退職が組織の存続自体を揺るがしかねず、残った社員をも不安に陥れるという面もある。

◆連鎖退職のパターンとは?

 筆者は、実際に会社を辞めた人や、複数の会社の関係者らに聞き取り調査を行った。その結果、このうち5社の関係者から「若手が連鎖退職した」との証言を得た。また、連鎖退職の「きっかけ」にはいくつかのパターンがあることがわかってきた。それらを紹介したい。

(1)能力があり、実績を上げている社員の退職

 企業への聞き取りで「エース級の人材だった〇〇さんが辞めたことで、会社の将来に不安を覚えた若手社員たちが大量に連鎖退職した」という話を何度か耳にした。

 優秀だが、「退職を考えているのでは」と噂(うわさ)される社員に、会社がどのような「仕打ち」をするか。若手社員たちは注意深く観察しているという。なぜなら、「明日はわが身」かもしれないと思うからだ。

 そうした社員を目標にし、その背中を見て仕事をしてきた若手は、先輩が退職に踏み切ったのをきっかけに、組織への不安を強く覚え、その後を追う……若手に多い連鎖退職の「きっかけ」のようだ。

 こうしたケースでは、企業へのダメージも大きい。米国のエコノミスト、Wayne F.Cascioの研究では「1人の社員の退職で企業が被る損失は、当人の給与の93~200%に上る(当人が生み出す売り上げ、利益等から算出)」という。

 優秀な人ほど多くの仕事を抱えているケースが多い。その人が辞めてしまうと、残った社員への負担が重くなる。穴を埋めるために補充人員を採用すれば、教育コストもかさんで、会社も大きな負担を被ることになる。

(2)希望退職やリストラ

 希望退職は、会社の業績悪化に伴うことが大半だ。そんな時、沈むかもしれない泥船から「我先に」と出ていく、というものだ。

 こうした状況では、会社側が「辞めさせたい」と思っている社員ではなく、(1)で挙げたような「優秀な人」がまず辞めてしまうことが多い。

 優秀な人は往々にして「エンプロイアビリティー」(転職できる能力)が高いため、条件の良い転職先を見つけやすい。あるIT企業の関係者も「(希望退職の募集で)一番残ってほしいと思っていたエンジニアが真っ先に辞めた」と明かす。かえって業績の立て直しが難しくなったという。

 このように希望退職で「転職市場価値」の高い優秀な人が辞めると、希望退職の対象外である若手にも影響しやすい。会社が「希望」しない若手の連鎖退職を招いてしまう恐れもある。

(3)経営者の交代

 最近は新卒でベンチャー企業に就職する学生も増えている。ベンチャーなどの新興企業では、賃金や社会的ステータスではなく、経営者の考え方に共感して集まってきた社員も多い。

 そのため、経営者の交代で会社の方針が大きく変わると、方向性がぶれてしまうと感じる社員も多くなる。この場合も連鎖退職が発生しかねない。小規模な会社が多く、社員一人ひとりの担当領域が広い。他の社員が去ることで、自分の仕事に大きな影響が出かねず、これも退職の引き金になりかねない。

 将来性があるとされているベンチャーが大企業などに買収されるケースが目立つが、この手のケースでも連鎖退職を招く恐れがある。

 会社が不祥事を起こし、社長が引責辞任した後に、若手の退職が増えるケースもあるだろう。これは完全に会社に対する失望が招いた連鎖退職といえる。

◆連鎖退職が生む深刻な影響

連鎖退職によって会社が被る悪影響は、人員の補充や教育にかかるコストにとどまらない。筆者が考えるさらなる悪影響は以下の三つだ。

(1)会社の評判の悪化

 近年、多くの人が日常的にSNSなどで情報を発信し、その影響が軽視できないまでになっている。

 かりに、辞めた会社の悪い情報を1人の社員が流したとしても大きな影響はないかもしれない。

 だが、同じ会社を辞めた人が次々に同じような情報を流し、マスメディアなどに取り上げられれば、「その会社に何か問題があるに違いない」という評判が広がりかねない。燃え広がった火を消すのは容易ではないのだ。

(2)採用への悪影響

 これは(1)とつながるが、近年の就職活動中の学生や転職希望者は、志望している企業のホームページなど「公式情報」だけでなく、SNSやクチコミサイト、インターネット掲示板などを幅広くチェックしている。

 社員がどんどん辞めているという情報はSNSなどを通じて就職希望者にも伝わり、応募者が減る原因になりかねない。

(3)社員教育、能力開発への影響

 連鎖退職によって多くの社員が退職すれば、職場での社員教育や能力開発にマイナスの影響を与えるのは間違いない。

 近年は、職場内で比較的若い社員もOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング=実務を通して社員を教育すること)のリーダーとして新入社員らの指導を行うことが多い。リーダーを任された社員が辞め、さらに、その下の世代が影響を受け連鎖退職がみられるようになってくると、当然「育成の連鎖」がとぎれることになる。

 さらに進めば、市場競争に勝つための知識やスキルの蓄積に悪影響を及ぼすことになるだろう。

◆連鎖退職を防ぐには……

 転職が一般化している昨今、社員全員の退職を防ぐのは不可能だ。では、連鎖退職を防ぎ、会社への影響を最小限にするため、経営者や管理職は何をすべきなのか。

 ポイントは三つある。

 まず一つは、会社の将来への不安など、会社に対してマイナスイメージを抱くことによる転職を極力減らすことだ。

 そのためには、円滑なコミュニケーションと情報共有ができる職場に変えていく必要がある。筆者は、悩みつつも最終的に「辞めない」という決断をした複数の人に聞き取りをしたが、その理由として最も多くの人が口にしたのは、「周りに相談する人がいた」という言葉だった。

 連鎖退職が同僚の退職がきっかけで起こるのと同様に、退職を思いとどまるのもやはり同僚の影響が大きいのだ。そして、直属の上司も「1対1」の定期面談の機会などを活用し、若手社員の言葉に耳を傾ける必要がある。

 自社で連鎖退職が起こったという人への聞き取りでは、その理由について「横(の結束)は強いけれど、縦が弱いから」と指摘する人もいた。つまり、若手社員は年齢が近い同僚とのコミュニケーションはできているけど、経営陣や管理職とのコミュニケーションが不十分だというのだ。

 上司らとの率直なコミュニケーションや情報共有は、将来への不安や、マイナスイメージの払拭にもつながる。若手が本当の意味で何でも話すことができ、そこで出た意見を仕事に取り入れることを目的とする「職場懇談会」などを行うのもよいだろう。

 二つ目は、高い実績を上げ続けることができる「ハイパフォーマー」や、類いまれな能力を持つ人材の定着を特に意識することだ。

 優秀な社員は、若手や同僚への影響力が強い。彼らが会社に定着することは連鎖退職の防止につながる。例えば、入社後の早い段階で重要なプロジェクトに抜擢(ばってき)できるようにしたり、副業や在宅勤務を可能にしたりするなど、優秀な人材が望みそうなことを意識して導入する方法もある。

◆「人」を大切にする社風を

 そして最後は、退職者が出た後の工夫だ。

 ギリギリの人員で業務を回すことが多い小さな職場や組織の場合、退職者が出た後、引き継ぎや人員補充が不十分なまま、退職者がやっていた仕事がそっくりそのまま残った社員にのしかかってくることが多い。

 残った社員の負担は一気に重くなって、連鎖退職につながりかねない。そこで、どの社員がどんな仕事をしているかということを明確にしておくとともに、かりに退職者が出た時、各人の負担を重くしないためにどのように対応するか、事前に想定し、計画を練っておく必要がある。

 社員の定着を図るためには、賃金や福利厚生を手厚くするだけでは不十分だ。前述の通り、共感できる経営陣や上司の魅力も必要だ。それぞれの社員を、働き手としてだけではなく、一人の「人」として、その生活までを重んじるという「社風」の醸成も必要だと思う。

 職場全体のパフォーマンスを向上させるためにも、連鎖退職を生まない職場環境づくりが必須なのだ。

引用元:読売新聞


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